パンドラ

坂元一孝/作曲
(2002年ソロリサイタル〜扉〜委嘱作品)


この曲を委嘱する時に、箏の基本調弦の「平調子」、「雲井調子」、さらには「陰の五調子」「陽の五調子」などなど...と箏の古典調弦の説明から始めました。箏という楽器は調弦によって共鳴が大きく変わるので、楽器が生き生きと歌えるように作曲の段階で考慮に入れてもらえればありがたいと思ったのです。ところがこの作品は本当に「平調子」そのものではじまるのです。

普通に「平調子」とはいっても十三本の糸(箏の糸は十三絃です。)のうち一の糸をオクタ−ブ下げると作曲家に使える音域が飛躍的に増えるので、現代曲はほとんど一の糸をオクタ−ブ下にします。箏という楽器はただでさえ、十三個の音を基本にする制限の多い楽器なので、一の糸と五の糸が同音という古典の調弦は現代曲には使われません。

ストイックに制限を守り、古典の基礎の調弦でありながら、それを感じさせないという離れ業です。さすがに演奏は苦労の連続です。楽器はちゃんと鳴りますが、一の糸と五の糸が同音という古典の調弦は演奏もストイックな透明感を出すことを要求します。

作曲者コメント:
この曲は2001年秋に作曲しました。タイトルは言うまでもなくギリシャ神話の中から取ったものです。浜根さんの希望により、古典調律(平調子)を基本としていますが、僕はいわゆる現代音楽を書くつもりはなかったし、古典音楽を書く必然もないので、作曲形式よりも音色やフレーズの遠近感に注意しながら仕上げました。一枚の絵画をじっくり眺めるように聴いて頂ければ幸いです。